風俗嬢との恋8 ~姫子の過去1~
どうしても今年中に1千万円を貯めないといけない――――。
彼女は確かに僕にそう言った。
でもまだ20代そこらである彼女が、なぜそれほどのお金が必要なのか。
「どうしてそんなにお金が必要なのかって思ってますよね?」
まるで僕の心を見透かしたかのように彼女は言った。
「くだらない理由なんです。だから本当のことを言ったら、チョコおじさんは私のことを嫌いになりますよ」
「嫌いにならないよ!だからきちんと説明して欲しい」
僕がそう言うと、彼女は下唇を噛んだまましばらくの間黙っていた。
きっと僕に言うか言うまいか、彼女の中で激しい葛藤があるのだろうと容易に想像できた。
でも彼女は決心したかのように、ポツリポツリと話し始めた。
***
今から3年前のこと。
姫子がまだ大学生だった時に1人の男に声を掛けられた。
「すみません、一目ぼれしてしまいました。今声を掛けないと一生会えないかもと思ったので…。もし良ければ、連絡先を交換してくれませんか?」
今ならよくあるナンパの手口だと分かるが、地方から上京して来たばかりの彼女は彼の言葉をそのまま受け取り、連絡先を交換してしまった。
「悠太」と名乗るその男とのメール交換がその日から始まった。
「おはよう」「ご飯何食べた?」「今何してる?」「そろそろ寝るね」
そんなたわいもないやり取りが楽しくて楽しくて、いつの間にか姫子は悠太に夢中になってしまっていた。
そんなある日、「もし良ければ今日の夜デートしない?」と悠太に誘われた。
会うのは声を掛けられた以来だったため、張り切ってオシャレをして出かけた姫子。
どこへ連れて行ってくれるのだろう…とワクワクしていると、着いたのはホストクラブだった。
「え、ここって…?」
「ホストクラブ!俺、ここで働いてるんだ。あ、お金のことは気にしないでいいよ!今日は俺がおごるから♪」
ホストクラブなんて言ったことがなかったため少し怖かったが、悠太が働いている場所なら大丈夫だろうと入店。
中に入ると、今まで見たことないようなきらびやかな空間が広がっていた。
「いらっしゃいませ!」と出迎えてくれるホスト達は、まるで芸能人のようなオーラが漂っている。
姫子が珍しさのあまり店内をきょろきょろしていると、いきなり悠太が彼女の方を抱き寄せ、
「姫子。ダメだよ、俺以外の男に見惚れたら」
と言った。姫子は今まで感じたことないような胸の高鳴りを感じた。
おそらくこの時、姫子は悠太に恋に落ちてしまったのだ。
初めてホストクラブで過ごした日は、間違いなく姫子にとって人生最高の瞬間だった。
悠太がそばにいて、かっこいいホスト達にチヤホヤされて…。
ホストクラブにいたのはたった1時間程度だったが、姫子がホストクラブにのめり込むには十分な時間だった。
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9話目【風俗嬢との恋9 ~姫子の過去2~】